星を見に行く。
-わしらはいかにして星空にとりつかれたかの物語-

ご注意:このお話はある程度現実に近いとはいえあくまでフィクションであり
実在の人物・団体とは原則として関係あります、もとい、ありません。


1.プロローグ〜2001/1/28
   
[プロローグ・2001年1月中旬]

 家に帰ると、カミサンが言った。
「makoちゃんから電話があってね、望遠鏡買っちゃったんだって!」
 驚いた。確かにこのところmako氏とはよく星についての話をしていたし、つい先日も望遠鏡の話をしたばかりだ。けれども本当ににすぐ買ってしまうとは思わなかった。店には在庫が無いため取り寄せになるという。いま店と書いたがこれは望遠鏡専門店のことではない。そんなもの、浜松にはないのだ。
 なんと彼が購入したのはホームセンターでなのだった。今にしてみればなるほどそういうものなのだな、と思うけれども初めて聞いたときにはちょっと虚を突かれたかんじだった。価格は5万円弱でありその価格にしては高機能なことにモータードライブ方式になっていて、さらに自動的に星をとらまえて追尾する装置までついているという。それはすごい。
 驚いたがしかし、これは楽しみなことになった。届いたらぜひ見せてもらわねばなるまい。おれは餓鬼のころから科学好き、なかんずく宇宙好き(おかしな言い方だが)であって、幼稚園の卒業(卒園、というべきか)記念の、墨汁で押した小さな手形のわきには「科学者になりたい」などと書いてあるほどなのだが、これまで天体望遠鏡というものを覗いたことが実はないのだ。ああもあろ、こうもあろ、と期待は膨らみ、まるで自分のことのように到着予定日を心待ちにして過ごす。

 さて望遠鏡の到着を待つあいだに「makoちゃん」とは何者か、を説明してしまおう。
 mako氏というのはカミサンのバンド「P7」(後に「BONE」へ発展する)でギターを弾いている、つまりおれたちのバンド仲間である。いかにもロックギタリストらしい豊かな長髪を背中に垂らし、関西弁をあやつる。(彼は四日市の出身であり、おれなどはこれまで三重県というと名古屋圏になるのかと思っていたが、彼の弁によるとどうもそうではなくかなりのセンで「関西」であるらしい。そのわりに野球はドラゴンズファンである)
 ギターを弾くだけでなく多重録音で自作自演のオリジナル曲を作るほど音楽に堪能なうえ料理もかなりの腕前であり、コーヒーも自分で焙煎するほどこだわりがあると同時にバイク乗りでもあり、エアブラシや油絵の筆も握り、iMacでPhotoshopを駆使したCGも描く。アウトドア好きで映画好きでTVゲーム好きで、イギリス滞在経験があり今でも年に一度は海外に数ヶ月かけて旅行に行く、というおよそ多趣味な人物である。
 彼が我が家によく遊びに来るようになったのは去年の秋ごろである。きっかけは料理だった。自慢の東南アジア料理をごちそうしてくれたのだ。それから、多少は料理をするおれとの「イタリアン対決」やら「中華対決」やらを経て、月に1度か2度、お互いちょっと特別な料理を作ろうという時はうちに集まるようになった。
 ある夜、宴が終わり彼を駐車場へ見送るとき、なぜだか星の話になったのだ。ちょうど冬の星座がまっさかりであり、あれがオリオン、あれが牡牛座、あれがシリウスあれがプロキオン、などとカミサンをまじえて話すうち、おれとmako氏は互いがかなりの星好きであることを初めて知ったのである。
 以来やけに星に関する話をするようになり、NHKで深夜にやっていた惑星に関する番組のビデオを一緒に見たり、彼が昔持っていたという屈折望遠鏡の話を聞いたりするうち、おれもいにしえの星への思いが日に日に強くなり、ある日「四季の星座」という星座早見図や星雲、銀河などのカラー写真がたっぷり載っている本を見つけて思わず買ってしまったのだ。
 遊びに来たmako氏はそれを見つけて、おおこんな本まで買うてしもたんや、入れ込んどるナ、と嬉しそうにその本を眺め、そして
「ちゃんとした望遠鏡があるとこんなふうに見えるんやろナ、やっぱ望遠鏡欲しいナ」
としみじみ関西弁で言ったのである。やれやれこれでやっと冒頭のカミサンのせりふにつながるのだった。
※付記:ちなみにmako氏はその後自分のホームページをもつに至っている。かれのページへはこちらからどうぞ。

 ながながと説明しているうちに望遠鏡が来る日がやってきた。ところが、届いた望遠鏡を組み立てたところ軸駆動のモーターがきちんと動かんのや、と電話があった。次の土曜日をデビューにしようと話していたところだからmako氏は急遽購入店に交換を申し込み、なんとか土曜日には間に合うことになったという。やはり精密な機器だからこういうこともあるのだろう。当日は彼は日中仕事があるため、望遠鏡は我が家にて受け取り、事前に必要な組み立てや調整作業などを昼間のうちにおれがすませておく、という段取りが組まれた。
 さて土曜日である。約束の時間をたがえず品物は届いた。ひとのものではあるけれど生まれて初めて天体望遠鏡にさわるのだ。胸の高まりを押さえきれずふるえる手で梱包をとく。組み立てにさほどの手間はかからなかった。モーターの具合も問題はない。
 いちばん苦労したのがファインダーの調整だった。先端に小ぶりの照準用の望遠鏡がついており、これを覗いた視野の中心と本体からの視野の中心がぴたりと揃わなければならないのだ。窓からいちばん遠くに見える送電塔の先端を目標に、なんとか許容範囲と思えるレベルまでこぎつけた。
 取扱説明書と自動導入装置「オートスター」の説明ビデオを見て操作方法を覚える。星を望遠鏡の視野に捉えることを「導入する」と言うのをこれで初めて知った。
 すべてを済ませ、煙草を手にしばし見とれる。アルミの三脚の上に斜めにそびえる純白の鏡筒。うーんなんとやはり天体望遠鏡は実にカッコいいものなのだ。
 
 かくしてmako氏の愛機、MEADE DS-115は臨戦態勢がととのった。あとは夜を待ち、いよいよ星を見に行くのみ。


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2001.1.27(sat) 浜北・天竜川河川敷
 ついにmako氏MEADEがデビュー。
だがそもそもどこで星を見るのがいいのか初心者のおれたちには皆目わからない。とりあえず浜松市内より浜北のほうがよさそう、かつ回りに人家のない広いところがいいだろう、と見当をつけて浜北市内の天竜川河川敷を選択する。かなりの寒さが予想されるためアウトドア用バーナーとカップ麺を持っていくことにする。
 ところが、セッティングを済ませオートスターの設定を始めたとたん、みるみる雲がひろがり視界不良になってしまう。到着時には若干雲がかかってているものの星は見えていたのに。お湯を沸かしてカップ麺を食べつつ雲が去るのを待ったがその気配はない。残念ながら撤収。

きっちり防寒をしないと寒い寒い↓

2001/1/28(sun) 五島の浜〜都田公園
 さて今夜がmako氏MEADEの実質デビューだ。前回の河川敷では橋を渡るクルマのライトが思いのほか明るかったので、それなら海だ、と遠州灘を臨む通称「五島の浜」へ出陣。天候は風が強いものの晴れておりばっちりである。
 ところが、オートスターの不具合が出来。金星を自動導入してみたところ東西が逆を向いてしまう。設定をやり直してみても同じ症状なので、手動モードに切り替える。エイこれはしかたがない。さあとにもかくにもいよいよ望遠鏡で星を見るのだ。
 他の星たちよりあからさまに明るく輝いている惑星なら初体験でも導入しやすそうだ。まず金星にねらいをつける。
 するとどうだ、見える見える。肉眼では点にしか見えない金星が、小さくではあるけれど、円盤状に見えるのだ、すごい。しかも欠けているらしい様子も(金星も月と同じように満ち欠けをするのだ)わかるではないか。これはすごいぞ。
 ついで木星へと鏡筒を向ける。おれが導入を試み
「木星が見えるぞ!」
と叫んだ。ところがアイピースを覗き込んだカミサンが、
「なんだか輪みたいなものが見えるんだけど」
と言うのだ。木星にも輪があることは知っている。けれども天文台じゃあるまいしこの望遠鏡でそこまでは見えるとは思えない。ということは、なんとこれは木星を導入したつもりが実は土星だったのか。あわててもう一度アイピースを覗く。おおたしかに、先刻は木星と思いこんでいたため気づかなかったがその星は円形ではなくぼんやりとした楕円形をしており、そしてそれはよく見ると、光る円盤の両側にぽこりぽこりとちいさな突起がとびだしているようなかんじになっているのだった。そうなのだこれは土星なのだ、輪っかがくっついているのだ。ついに土星の輪をこの目で確かめたのだ。
 そして今度は間違いなく木星、そして月面を観察する。すべてが生まれて初め見る、望遠鏡を通しての光景だ。こころの底のほうでなにかがじわり、と浸みわたるような心持ちがする。
 ダメモトで持ってきていたデジカメをアイピースに押し当てて星を撮ってみる。木星や土星は真っ暗になってしまうが、明るい金星はなんとかとらえることができた。これにも感動。

←そうは見えないかも知れないけど金星です

 やがて空が曇ってきたため観望を切り上げることにしてmako氏宅にてこの感動を語り合う。ところがそのあと屋外に出てみると、なんと雲がすっかり去っているではないか。
 まだ見える!とばかり、急遽こんどは浜松市北部にある「都田公園」に向かう。まだ地平線に沈まずにいる木星、土星を観察。土星の輪や木星の縞が、浜で見たよりくっきりして見える。してみると、海より山なのか。公園のど真ん中にもかかわらず道を尋ねてきた見知らぬお兄ちゃんにびびりつつも記念すべき初の星空観望を終える。

2001/1/29(mon) 細江公園展望台
 mako氏MEADEはまたもや交換とあいなる(オートスターのみだが)。
 さて浜松市近辺で最良の観望地はどこなのか。海では北側すなわち市街地の方角がほぼ全滅に近い。都田公園も、こちらは南側の空が白い。これはあちこち探さねばなるまいと、平日であるが仕事を終えた後、こんどは浜松市北西にあたる細江公園の展望台に向かう。
 望遠鏡を覗いてみると、今日は土星の輪、木星の縞があきらかに前日よりもくっきり見える。土星の輪などはもうただの突起ではなくて、その突起の中に黒い部分があることがはっきりわかり、より輪っからしく見えるのでうれしくなってしまう。
 それならばとオリオン座の「剣」の部分へ望遠鏡を向けてみる。ここにはオリオン大星雲M42があるのだ。翼をひろげた鳥のような迫力ある姿が実に美しい。その実物を観察でき、大感動。写真だとピンク色をしているのだが、眼視だと真っ白なのが、ちょっぴり残念なのと同時に、まさに星「雲」なのだなあと感心する。星雲や銀河は写真で見ると様々な色を持っているのものが多くまことにきれいなのだが、あれはカメラで写してはじめて色が見えるものなのだそうだ。
 やはり市街地方面の空は真っ白でアウツだった。まだまだ近すぎるのだろう。
 帰宅後解説本を読んでいると、大気の具合も見え方におおきな影響を及ぼすとのこと。してみると光害はともかく、今日たとえば土星の輪が昨日よりくっきりしていたのは観望地のせいなのか大気のせいなのか。やれやれわからないことだらけだ。
 さて次回は、それならばとにかく光害をさけるため秋葉神社のほうまで足をのばしてみようではないか、ということで話がまとまった。かの地の星空ははたしてどんなふうに見えるのか。

(2.へ続く)



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