我が名はULTRA SKY
-10cmドブソニアン反射望遠鏡を制作するの記−

ご注意:このお話はある程度現実に近いとはいえあくまでフィクションであり
実在の人物・団体とは原則として関係あります、もとい、ありません。


1.ULTRA SKY1号製作記
   
「もうしんぼうたまらん。おれは望遠鏡を買う。」
 mako氏と三人で星を見に行き、彼を自宅まで送った帰りの車内でおれはついにカミサンに宣言した。
(mako氏については「星を見に行く。」を参照ください)

 mako氏の天体望遠鏡で星を見るようになって以来、やはり自分の望遠鏡が欲しいと思うようになっていた。これはもう当然の人情というものである。天文雑誌にはメーカーだけでなくショップの広告もたくさん載っており、それらの広告ページを舐めるように読むのが日課となった。
 しかしやっぱり望遠鏡というものは基本的に高価なのである。おれたちがバンドで使っているシンセサイザーなども似たような価格帯のものが多いから、まったく手が出ないとはいわないが、といってひょいひょいと買えるものでもない。mako氏のMEADEはかなり安価だが、同じものを買うのではつまらない。なかなかに悩みどころなのである。
 その一方で、一枚の写真がきっかけでドブソニアン、というものに急速に興味をひかれるようになっていた。mako氏が持っていた雑誌にその望遠鏡の写真は載っていたのだ。そこにうつっていたのは、およそぱっと見には望遠鏡にみえないしろものだった。
 直径はおよそ40〜50cm、高さは人間の背丈ほどはあろうかと思われる巨大な漆黒の円筒が、ほとんど地面からいきなりナナメに立ち上がっているかのように天にむかって屹立している。まるで大砲のようなその姿を見たとき、おれの胸ははげしくざわついた。いったいなんなのだこれは。
 すばやくページに目を走らせると、その望遠鏡はninjaという機種であるらしく、そしてどうもそれはドブソニアンというものであるらしいのだが、くわしいことがさっぱりわからない。実はその記事は連載の2回目であって、そのあたりの事情は前の回に書かれていたようなのだ。
 広告ページを見てもninjaは出ていない。わずかにドブソニアンという単語は2〜3箇所見つかったが、むろん説明はない。いや商品のスペックはあるのだがドブソニアンとはなんなのか、と言う記述はどこにもないのだ。
 記事と広告の写真で共通しているのはどうやら構造的に「三脚がない」ということだった。だから地面から直接立ち上がっているように見えるのだ。だがこれだけではあまりに情報が少なすぎる。望遠鏡の解説本を買いこみ、インターネットであちこち調べ、ようやくようすが掴めてきた。
 ドブソニアンとは1950年代にアメリカのドブソンという人が考案した、複雑な機構をなるたけはぶいた架台にのった大口径のニュートン式反射望遠鏡のことなのだ。だからあのような姿をしているのだ。架台のところはたしかにじつにシンプルなつくりである。鏡筒の向きを垂直方向に変えるための軸は、鏡筒の両側についた円盤状の回転軸を架台側のU字がたまたはV字がたの溝に載せてあるだけ。水平方向の回転は、架台ぜんたいが中華料理屋のテーブルみたいにぐるぐる回るようになっている。
 そして、そのシンプルな構造から、自作する人も多いのだという。実際インターネットでは自作している人のページがいくつもあった。リンクページをご参照下さい)
 そして雑誌の広告ページで見たのはそのドブソニアンを自作するためのキットだったのだ。そのうちオルビイスという会社の「ミニドブソニアンキットKT-10cmDB」というのが、本体は紙の筒製で¥9,800、架台が木製で¥3,800と思い切り手ごろな価格である。そうかそうかそういうことか、ではこれを買えば自分で望遠鏡が、それも気になってしかたがないドブソニアン望遠鏡がつくれてしまうのだ。

 これで買うべき望遠鏡は決まった。さあ、おれは望遠鏡をこの手でつくるのだ。なんとわくわくする話ではないか。

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2001/2/5(mon)
 早速オーダーの電話をし、送料・消費税込み¥15,855なりを振り込む。
 すでに名前は「ウルトラスカイ1号」と決めている。そりゃもう宇宙といえばウルトラ、なのだ。
 カラーリングも考えなくてはならない。ずばりウルトラマンの色、すなわち銀色の地に赤のラインというデザインを着想し、Macでラフスケッチを描いてみる。いかにも「宇宙!」という感じがして非常によろしい。科特隊の新兵器みたいだ。
 けれど、プリントアウトしたものを冷蔵庫のドアに磁石でとめて眺めているうち、どうも少々おもちゃっぽいような気がしてきてしまった。色についてはもう一度考え直すことにしよう。

2001/2/7(wed)
 帰宅するとキットが到着していた。もう梱包を解く前から感動している。
 段ボール箱をあけてみると、おお入ってる入ってる、スチロールの緩衝剤に守られて厚紙製の鏡筒が鎮座ましましている。その姿にしばし見とれつつ、記念にデジカメでパチリ。
 しかし今日はもう手をつける時間がないのだ。しかたがないので組み立て説明書を眺めながら寝酒を一杯やり、明日を夢見ながら寝る。

2001/2/8(thu)
 黒地にラメスプレーで銀河を描くという着想を得る。以前仕事で作ったバイク用ペイントスプレーのカタログにそういうのがあったのを思い出したからだ。そうだよしこれで行こう、とこころを決める。

2001/2/10(sat)
 さあ今日から製作にやっと着手する。この土日でメドをつけようという魂胆だ。まずは昼間のうちに塗料その他を購入しにいくが、ここではたと考えた。前述のラメスプレーはたしか一本二千円ちかくするのだ。どうせならなるたけ安価につくることにもこだわりたい。プラカラーのシルバーを買って、幼稚園のころやったみたいにハブラシと網をつかって吹き付ける(わかりますね)というのはどうだろう。
 ホームセンター〜プラモデル屋を回って黒スプレー、クリアスプレー、サンドペーパー、プラカラーは安かったので銀、金、カッパーの三色を購入。レシートをなくしてしまったが、しめて千円ちょっとの出費であった。
 夜はバンドの練習があったので、帰ってからもうひと作業。鉛筆で鏡筒や架台に寸法線を引き、ビスどめする位置に印を付ける。これは簡単にすんだ。そして鏡筒に接眼部を取り付ける穴をあける。目打ちであけた穴にカッターを差し込んでごりごりあけていくが、紙製とはいえかなり硬くて厚いのでなかなか思うように切れない。切り口ギザギザ、かたちもいびつな穴になってしまったが、まあこの穴は接眼部でかくれるのだからよしとしよう。

2001/2/11(sun)
 昼より製作のつづきに入る。
 まずすべてのビスどめ部分に下穴をドリルであけておく。ついで架台部分、鏡筒を囲むように取り付ける垂直回転部を組み立てる。ビスをねじ込んでいくうちにどうしても少しずれてしまい、箱がたに組む部分のカドがぴったり合ってくれない。しかたがないのでサンドペーパーでがりがり削って少しごまかす。
 ここからは塗装してからの作業がよさそうだ。ちょうど黒スプレーで鏡筒と架台を塗装し終わったところへmako氏がやってきた。
 じつは彼は秘密兵器を持ってきてくれたのだ。先刻作業を始めたころに電話があり、今日は望遠鏡を作ってるんだ、と告げるとみたい見たい、という。
「色とかどうすんのん」
「黒地にね、銀河を描こうと思ってさ。ほらガキのころハブラシと網で絵を描いたじゃない、あの手法」
「それやったらおれエアブラシ持っとるデ。持ってったろか」
「あっそれはいいなあ、ぜひお願い」
 というわけでmako氏が持ってきてくれたエアブラシを使って、鏡筒にシルバー、ゴールド、カッパーで銀河のイメージをペイントする。エアブラシを使うのは初体験なので最初にうち勝手がわからなかったが、どうにかサマになったようだ。
 さらにクリアをスプレーする。これは鏡筒だけにとどめ、架台などの木製部分はラッカーのままにしておくことにする。塗料の乾燥を待ちながらしばしの休憩後、鏡筒の内側に植毛紙を貼りつける。
 組み立て作業に戻り、まず架台の水平回転部をつくる。ところが、回転時たがいに擦り合う面の片方にビスの頭が少し出ていて、がりがりひっかかってしまいどうしてもスムーズに回転しない。いくら強くねじ込んでもだめなのだ。さてどうしたものか、考え込んでいるとカミサンが「CD-Rを使うっていうのはどう?」といった。これはいいアイデアだった。焼きこみに失敗したCD-Rがたくさんあるのだ。これを回転部分に1枚挟み込むことでビスの頭問題を回避することができた。回転もなかなかスムースである。よしよし。
 もうあとは各部品をビスどめしていくだけである。主鏡、斜鏡を慎重に装着し、ファインダー、接眼部を取り付ける。鏡筒に垂直回転部をとりつけ、架台に載せてバランスをとってからビスどめする。
 これで組み立ては完了したのだが、まだ「光軸調整」というものをしなければならない。鏡筒先端から入ってきた光が、いちばん奥にある大きな凹面鏡、主鏡に反射して集束しながら戻ってくる。それが入り口近くに斜めにおかれた小さな鏡、斜鏡にあたって、今度は横に反射して接眼部に入ってくる、これがニュートン式反射望遠鏡のしくみなのだが、これらの光の通り道がぴたりと決まっていなくては接眼部を覗いてもきちんと見えないのだ。
 言うのはかんたんだがこれが難しい。そもそも正しい状態、というものを知らないのである。取説や解説書をみながらどうにかこうにかやってみるが、結局は実際に星を見てみるまでこれで合っているのかどうかはよくわからないのだった。
 いちおうの完成を見たのは夕方ちかくであった。Macで「ULTRA SKY I」のロゴを作って透明ステッカーに白文字でプリントし、要所要所にはりつけると、なんだか妙にちゃんとした望遠鏡のように見えるのでうれしくなってしまう。記念にデジカメでパチリ。ついでに段ボールを使って鏡筒内部ほこりよけのためのふたも作ってしまう。
 さっそく今夜の星見にULTRA SKY 1号を出動させる。木星、土星をみごと捉えることができた。(「星を見に行く。-2」を参照ください※近日公開

 これがおれの望遠鏡なのだ。自分でつくったと思えばいとおしさもひとしおである。家の中ではパソコンラックの隣を置き場所にすることにした。ここはリビングでのおれの座る定位置からちょうど正面である。定位置に座りグラスを傾けつつ、わが愛機を飽きもせず眺める毎日なのだ。

「2.ウルトラ三脚製作記」へつづく)



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